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50代から知るべき「60代以降の収入ダウン」4つの崖と乗り越え方

「人生100年時代」と言われ、セカンドライフへの期待が膨らむ一方、多くの方が漠然とした不安を抱えるのが「お金」の問題です。

「60歳で定年を迎えても、年金だけでは心もとない。働き続けるつもりだけど、収入は本当に大丈夫だろうか?」——。50代の今、そうお考えになるのは自然なことです。

実は、60代以降には収入が段階的にガクンと落ち込む「4度の収入ダウンの崖」が待ち受けています。さらに、その崖をより険しくするのが、時間差で家計を襲う「住民税の罠」です。

しかし、ご安心ください。未来を正しく知り、今から備えることで、これらの崖は乗り越えられます。

この記事では、数々の家計相談に乗ってきたプロの視点から、60代以降の収入のリアルと、50代の今から始められる具体的な対策を、最新のデータに基づいて徹底解説します。

1. 人生で4度訪れる「収入ダウンの崖」その正体とは?

60歳を境に、私たちの収入は一直線に下がるわけではありません。まるで崖を転げ落ちるように、段階的に、しかし確実に減少していく局面が4度訪れます。

【第一の崖】60歳・定年再雇用:現役時代の半分以下になることも

最も多くの人が最初に直面するのが、60歳での定年、そして再雇用への移行です。厚生労働省の調査によると、定年を迎えた人のうち8割以上が継続雇用を希望し、その多くが実現しています(※)。しかし、問題はその収入額です。

役職を離れ、勤務日数や時間が変わることで、給与水準は現役時代のピーク時から大幅にダウンするのが一般的です。例えば、年収800万円だった方が、再雇用後は年収300万~400万円になるケースは決して珍しくありません。これは、まさに最初の「崖」と言えるでしょう。

※出典:厚生労働省「令和6年 高年齢者の雇用状況」

【第二の崖】65歳・完全リタイア:主な収入源が「公的年金」に

再雇用期間が終わり、完全に仕事をリタイアする65歳前後で「第二の崖」が訪れます。これまであった給与収入が途絶え、いよいよ主な収入源は公的年金のみとなります。

厚生労働省が示す、夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額(※)は、月額23万483円(2025年度)です。この金額で、夫婦2人の生活をすべて賄っていくことになります。現役時代はもちろん、再雇用中の収入と比べても、生活レベルの見直しが必須となる金額です。

※出典:厚生労働省「令和7年度の年金額改定について」

【第三の崖】70代以降:頼りにしていた「企業年金・個人年金」の終了

公的年金の上乗せとして、企業年金や個人型確定拠出年金(iDeCo)、個人年金保険などを準備されている方も多いでしょう。しかし、これらの多くは「10年確定」「15年確定」といった有期年金です。

例えば、65歳から10年確定の企業年金を受け取っていた場合、75歳でその収入は途絶えます。月々数万円でも、この収入がなくなるインパクトは大きく、公的年金だけになった家計はさらに厳しくなります。これが「第三の崖」です。ご自身の年金が「いつまで」「いくら」もらえるのか、年金証書などで正確に把握しておくことが極めて重要です。

【第四の崖】配偶者との死別:世帯収入の激減

考えたくないことですが、夫婦どちらかが先に旅立つと、家計には「第四の崖」が訪れます。2人分の年金で成り立っていた世帯収入が、残された配偶者1人分の年金と遺族年金に変わるためです。

遺族厚生年金は、亡くなった方の厚生年金額の4分の3が目安であり、世帯収入はそれまでより確実に減少します。特に、ご自身の国民年金しかない専業主婦(主夫)だった方は、生活水準の維持が難しくなる可能性があります。

2. なぜ手取りは想像以上に減る?時間差で家計を襲う「住民税の罠」

「第一の崖」である再雇用直後、多くの人が給与明細を見て愕然とします。「額面は半分になったのに、手取りは半分以下だ…」。この原因こそが「住民税」です。

住民税は1年遅れの「後払い」制度

住民税の仕組みは、所得税とは根本的に異なります。

所得税

今年(1月~12月)の所得に対して課税され、毎月の給与から天引き(源泉徴収)される。

住民税

前年(1月~12月)の所得に対して課税され、翌年の6月から1年間で納める。

つまり、再雇用で年収が300万円に下がった1年目(6月以降)に支払う住民税は、年収が800万円だった現役最後の年の所得を基準に計算されているのです。これが、収入ダウンの崖をさらに険しくする「時間差攻撃」の正体です。

モデルケースで見る「手取り額」の衝撃

具体的に、手取り額がどれほど変わるか見てみましょう。(※社会保険料・税額は扶養家族の状況等により変動します。以下はあくまで目安です)

定年前再雇用1年目再雇用2年目以降
額面年収800万円300万円300万円
額面月収50万円
(賞与ありの場合)
25万円
(賞与なしの場合)
25万円
(賞与なしの場合)
住民税(月額)3.7万円
(年収800万円ベース)
3.7万円
(年収800万円ベース)
0.9万円
(年収300万円ベース)
手取り月収(目安)37万円17万円20万円

※配偶者控除なしのケースで試算

ご覧の通り、再雇用1年目は収入が激減したにもかかわらず、高い住民税が課されるため、手取り額は額面の減少以上に落ち込みます。この重い負担は、翌々年の5月まで続きます。そして、再雇用2年目の6月からは、下がった年収(300万円)に対する住民税額に切り替わるため、手取りが少し回復するのです。

3. 「収入ダウンの崖」を乗り越える!50代から始めるべき3つの打ち手

これらの厳しい現実を乗り越えるために、私たちは何をすべきでしょうか。重要なのは、3つの視点から具体的な対策を今すぐ始めることです。

【打ち手1:守り】家計の徹底見直し ~支出をダウンサイジングする~

対策の基本は、収入の変化に合わせて支出をコントロールすることです。

50代のうちに現状把握

まずは、家計簿アプリなどを活用し、1ヶ月、1年間の支出を正確に「見える化」しましょう。特に、生命保険料、通信費、サブスクリプションサービスなどの固定費は、一度見直せば効果が続くため、最優先で着手すべきです。生命保険文化センターの調査では、生命保険の世帯年間払込保険料は平均で35.3万円にのぼり(※)、家計の聖域となりがちですが、保障内容が今のライフステージに合っているか必ず確認しましょう。

60歳で生活レベルをリセット

再雇用を機に、現役時代の生活レベルを一度リセットする覚悟が必要です。夫婦で将来の生活について真剣に話し合い、「外食の回数」「夫婦のお小遣い」「車の維持費」など、聖域なき見直しを実行することが、その後の家計を大きく左右します。

※出典:公益財団法人 生命保険文化センター「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査」

【打ち手2:攻め】働き方の見直しと公的制度のフル活用

支出削減と同時に、収入を確保するための戦略も重要です。

長く働く選択肢を考える

2021年4月に施行された改正高年齢者雇用安定法により、企業には70歳までの就業機会確保が努力義務とされています。再雇用後も、専門知識や経験を活かせる働き方を模索し、少しでも長く、意欲的に働くことが家計の安定に直結します。

知っているかどうかで差がつく公的制度
  • 高年齢雇用継続給付
    60歳以降の賃金が、60歳時点の75%未満に低下した場合、雇用保険から給付金が支給されます。ただし、2025年4月1日以降に60歳に達する方から、給付率が賃金低下率の最大15%から最大10%に縮小される点に注意が必要です(※)。対象となる方は必ず申請しましょう。
  • 年金の繰下げ受給
    公的年金の受給開始を66歳以降に遅らせることで、年金額を増やすことができます。1ヵ月繰り下げるごとに0.7%増額し、75歳まで繰り下げれば最大で84%も増額されます。健康状態や貯蓄額と相談しながら、有力な選択肢として検討しましょう。

※出典:厚生労働省「高年齢雇用継続給付の見直しについて」

【打ち手3:備え】老後資金計画の再設計

最後に、手元資金をどう守り、どう使っていくかという計画です。

退職金の役割を再確認

まとまった退職金は、老後生活の最後の砦です。住宅ローンが残っている場合は、退職金での完済を最優先に検討しましょう。毎月の返済がなくなる効果は絶大です。安易な投資や、生活費の赤字補填に使い始めると、あっという間になくなるため、明確な目的意識を持って管理することが重要です。

「ねんきん定期便」で将来をシミュレーション

毎年届く「ねんきん定期便」を基に、年金生活に入った後の毎月の家計収支を予測してみましょう。総務省の家計調査によると、夫婦高齢者無職世帯(65歳以上の夫婦のみの無職世帯)の1ヵ月の支出は約25万円です(※)。ご自身の年金受給額と比較し、毎月いくら不足するのか、その不足分を貯蓄で何歳まで補えるのかを具体的に計算することが、安心への第一歩です。

※出典:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2024年(令和6年)平均結果の概要」

まとめ:未来を正しく知り、今から備えることが「豊かな老後」の鍵

60代以降に訪れる「4度の収入ダウンの崖」と「住民税の罠」。これらは、誰の身にも起こりうる、ごく自然なライフイベントです。

最も避けたいのは、何も知らずにその場を迎え、慌ててしまうこと。50代の今、未来に起こる変化を正しく知り、漠然とした不安を「具体的な対策」に変えることができれば、何も恐れることはありません。

この記事が、あなたのセカンドライフへの羅針盤となれば幸いです。まずはご夫婦で将来について話し合う時間を作るところから、豊かな老後への第一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。

※本記事の内容は、執筆時2025年9月のものです。最新情報は各機関や企業の公式サイトをご確認ください。

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