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iDeCo(イデコ・個人型確定拠出年金)は、掛金全額所得控除や運用益非課税といった強力な節税メリットで人気の制度です。2025年3月時点で加入者数は約363万人(※厚生労働省資料より)に達し、老後資金準備の柱として多くの方が活用しています。
しかし、実はその効果を最大限に引き出すには「いつ、どのように受け取るか」という出口戦略が極めて重要になります。特に、会社からまとまった退職金が出る方にとっては、iDeCoとの受け取り方の組み合わせ次第で、手取り額が数百万円単位で変わることも珍しくありません。
「iDeCoと退職金、一緒にもらうと損するって本当?」「一時金と年金、どっちが得なの?」そんな疑問を抱えている方も多いでしょう。
さらに、iDeCo制度は常に進化しており、2025年度の税制改正では掛金の上限額アップや加入可能年齢の70歳未満への引き上げといった、より多くの資産を準備しやすくなる改正が見込まれています。一方で、受け取り時の税制にも「5年ルール」が「10年ルール」に変更(2026年1月1日施行予定)、さらに退職所得控除制度自体の見直しも議論されているなど、出口戦略を考える上での前提条件も変化しつつあります。
この記事では、最新の制度動向を踏まえつつ、iDeCoの受け取り方の基本から、退職金がある場合の賢い節税術、そして新しいルールにどう対応すべきかまで、具体的なシミュレーションを交えながら徹底的に解説します。あなたの状況に合わせた最適な出口戦略を見つけ、豊かなセカンドライフを実現するための一助となれば幸いです。
iDeCoを詳しく知りたい人はこちら
iDeCoの最大のメリットと注意点は何ですか?
最大のメリットは「掛金全額所得控除」「運用益非課税」「受取時の控除」という3段階の強力な節税効果です。注意点は、原則60歳まで引き出せないこと、運用リスクがあること、そして受取時の税金計算が複雑なことです。
iDeCoがなぜこれほどまでに注目されるのか、その核心はやはり強力な節税メリットにあります。具体的には、①掛金拠出時、②運用期間中、③受取時という3つのタイミングで税制優遇が受けられます。
まず、毎月の掛金が全額所得控除の対象となるため、その年の所得税と翌年の住民税が軽減されます。この効果は、所得税率が高い方ほど大きくなります。例えば、年収5,000,000円(所得税・住民税率合計20%と仮定)の方が毎月10,000円(年間120,000円)を拠出すれば、単純計算で年間約24,000円の節税に。年収7,000,000円(税率合計30%と仮定)の方なら年間約36,000円の節税効果が期待できます。
次に、iDeCo口座内での運用で得た利益(利息、分配金、売却益)はすべて非課税です。通常、投資で得た利益には約20%の税金がかかりますが、iDeCoならその分も再投資に回せるため、複利効果をより高めることができます。
そして、この記事の主題である受取時にも、後述する「退職所得控除」や「公的年金等控除」といった税制優遇が用意されています。
拠出限度額は加入者の区分によって異なり、例えば会社員(企業年金なし)の場合は月額23,000円です。2025年の税制改正により、この上限額が引き上げられます。
一方で、iDeCoを活用する上で理解しておくべき注意点もあります。最も大きなものは、原則として60歳まで積み立てた資産を引き出すことができないという点です。これは老後資金を確実に準備するための仕組みですが、急な資金ニーズには対応できません。また、iDeCoは投資信託などで運用するため、運用成果によっては元本割れするリスクも伴います。そして、今回のテーマでもある受取時の税金計算がやや複雑であることも、事前に理解しておく必要があります。
iDeCoの受け取り方にはどんな種類があり、税金はどう違うんですか?
受け取り方は「一時金(一括)」「年金(分割)」「一時金と年金の併用」の3つです。一時金は「退職所得」として、年金は「公的年金等控除」が適用される「雑所得」として課税され、税金の計算方法が異なります。一般的に一時金の方が税負担は軽くなる傾向があります。
iDeCoで積み立てた資産は、原則60歳から75歳までの間で、ライフプランに合わせて受け取り方を選ぶことができます。主な選択肢は、①一度にまとめて受け取る「一時金」、②複数回に分けて定期的に受け取る「年金」、そして③これらを組み合わせる「併用」の3パターンです。どの受け取り方を選ぶかによって、かかる税金の種類や計算方法が大きく変わるため、それぞれの特徴をしっかり理解することが重要です。
一時金で受け取る場合、そのお金は「退職所得」として扱われ、他の所得とは別に税金が計算されます。最大のメリットは、長年の勤労に報いるための「退職所得控除」という非常に大きな控除枠が使えることです。
勤続年数またはiDeCo加入年数が長いほど控除額は大きくなります。ただし、この控除制度は将来変更される可能性があります。
一度にまとめて受け取る場合:「退職所得控除」が適用されます。例えば、30年間iDeCoに加入して2,000万円を受け取る場合、800万円+70万円×(30年-20年)=1,500万円までは非課税です。
勤続年数またはiDeCo加入年数※ | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数またはiDeCo加入年数※ (80万円に満たない場合は80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数またはiDeCo加入年数※-20年) |
※退職金とiDeCoを一時金として同じ年に受け取る場合、勤続年数とiDeCo加入年数のどちらか長い方で計算
※iDeCo加入年数は掛金を拠出した期間
この退職所得控除額を差し引いた後の金額の、さらに1/2が課税対象となるため、税負担を大幅に軽減できる可能性が高いのが特徴です。例えば、iDeCoの加入期間(掛金を拠出した期間)が30年で受取額が2,000万円の場合、退職所得控除額は1,500万円となり、課税対象は(2,000万円 – 1,500万円)× 1/2 = 250万円となります。この金額に対して所得税・住民税がかかります。
また、一時金で受け取った退職所得には、社会保険料(国民健康保険料など)がかからないというメリットもあります。
ただし、会社からの退職金も同じ年に一時金で受け取る場合は、iDeCoと合算して退職所得控除を計算する必要があり、控除枠を超えた部分が課税される可能性があります(詳細は後述)。また、まとまったお金を一度に受け取るため、計画的に使わないと浪費してしまうリスクも考慮が必要です。
【重要】退職所得控除の見直しの可能性について
現在、政府・与党内では、この退職所得控除のあり方について、特に勤続年数が20年を超える場合の控除額の計算方法(いわゆる「20年超優遇」)などが、働き方の多様化や公平性の観点から見直されるべきとの議論が進んでいます。具体的な改正内容や時期は未定ですが、将来的に退職所得控除の額が縮小されたり、計算方法が変更されたりする可能性があることを念頭に置き、最新の税制改正情報を常に確認するようにしてください。この変更は、iDeCoを一時金で受け取る際の税負担に大きな影響を与える可能性があります。
年金形式で5年~20年程度の期間にわたって分割して受け取る場合、その年の受取額は「雑所得」として、公的年金など他の所得と合算して総合課税の対象となります。この際、「公的年金等控除」という控除が適用されます。
分割で受け取る場合:「公的年金等控除」が適用され、受け取る金額に応じて控除が受けられます。
年齢 | 年金額 | 控除額 |
---|---|---|
65歳未満 | 130万円未満 | 60万円 |
65歳以上 | 330万円未満 | 110万円 |
年金形式のメリットは、定期的に収入が得られるため、老後の生活資金として計画的に活用しやすいことです。また、iDeCoの資産を運用しながら少しずつ取り崩す場合、運用がうまくいけば受取総額を増やせる可能性もあります。
一方でデメリットは、公的年金やその他の所得が多い場合、合算されることで所得税・住民税の税率が上がったり、国民健康保険料や介護保険料などの社会保険料が増加したりする可能性があることです。また、iDeCoの年金給付時には、金融機関によっては給付事務手数料や資産管理手数料がかかる場合がある点も注意が必要です。
金融機関によっては、iDeCoの資産の一部を一時金で受け取り、残りを年金形式で受け取るという「併用」が可能な場合があります。ただし、併用する場合の税金計算はより複雑になるため、専門家への相談も視野に入れましょう。
退職金とiDeCo、どう受け取れば税金が一番安くなりますか?
退職所得控除を最大限に活かすため、受け取り時期をずらすのが基本戦略です。具体的には「5年ルール(※)」や「19年ルール」の活用、または退職金受取後にiDeCoの受取を遅らせ、可能なら少額でも拠出を続けることで控除枠を別に使える可能性があります。
※2025年度の税制改正で「5年ルール」が「10年ルール」に変更(2026年1月1日施行予定)
会社から退職金が支給される方がiDeCoの出口戦略を考える上で、最も重要なポイントは「退職所得控除」をいかに効率よく、最大限に活用するかという点です。前述の通り、退職所得控除は非常に大きな控除枠ですが、使い方を間違えると税負担が大きく変わってしまいます。
会社からの退職金とiDeCoの老齢一時金を同じ年に受け取る場合、それぞれの金額を合算したものが「退職所得」となり、それに対して退職所得控除が適用されます。この際、控除額の計算に使われる「勤続年数またはiDeCo加入年数」は、両者のうち長い方の年数が採用されます。
計算例: パターン①
前提条件:会社員(勤続30年)が退職金1,500万円と、iDeCo(加入年数20年)1,000万円を一時金で同時に受け取る場合
㋐退職所得
退職金1,500万円+iDeCo1,000万円=2,500万円
㋑退職所得控除
800万円+70万円×(勤続30年※-20年)=1,500万円
※勤続30年>加入年数20年のため30年を適用
㋒課税退職所得
(㋐退職所得2,500万円-㋑退職所得控除1,500万円)×1/2=500万円
㋓所得税
㋒課税退職所得500万円×所得税率20%※-控除額42万7,500円※=57万2,500円
※以下の所得税の税額表を参照
㋔復興特別所得税
㋓所得税57万2,500円×復興特別所得税率2.1%=1万2,022円(1円未満切り捨て)
㋕住民税
㋒課税退職所得500万円×住民税率10%=50万円
㋖納税額合計
㋓所得税57万2,500円+㋔復興特別所得税1万2,022円+㋕住民税50万円=108万4,522円
計算例: パターン②
前提条件:会社員(勤続30年)が退職金1,000万円と、iDeCo(加入年数20年)500万円を一時金で同時に受け取る場合
㋐退職所得
退職金1,000万円+iDeCo500万円=1,500万円
㋑退職所得控除
800万円+70万円×(勤続30年※-20年)=1,500万円
※勤続30年>加入年数20年のため30年を適用
㋒課税退職所得
(㋐退職所得1,500万円-㋑退職所得控除1,500万円)×1/2=0円
課税退職所得が0円なので納税額は0円です。
所得税の税額表(納税額=A×B-C)
A. 課税退職所得金額 | B. 税率 | C. 控除額 |
---|---|---|
1,000円〜194万9,000円 | 5% | 0円 |
195万円〜329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円〜694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円〜899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円〜1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円〜3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円〜 | 45% | 479万6,000円 |
パターン①(退職金1,500万円、iDeCo1,000万円、勤続30年、iDeCo加入20年)では、退職所得控除額1,500万円に対し、合計所得2,500万円となるため、差額の1,000万円の1/2である500万円が課税退職所得となり、約108万円の税金が発生しました。
このように、退職金とiDeCoの合計額が、長い方の年数で計算した退職所得控除額を大きく超える場合は、税負担が重くなる可能性があるのです。
※このシミュレーションは、2025年5月時点の税制およびiDeCoの受け取りルールに基づいています。以降iDeCoを受け取る場合、控除額の計算や納税額に影響が出る可能性があります。ご自身の状況に合わせて最新情報をご確認ください。
この同時受け取りによる税負担増を避けるためのテクニックとして知られているのが、通称「5年ルール(※)」と「19年ルール」です。これは、退職金とiDeCo一時金の受け取りタイミングを一定期間空けることで、それぞれの退職所得控除を独立して(または有利に)活用しようという考え方です。
計算例:
上記のパターン①について、5年ルール(※)を活用した場合を見ていきましょう。
前提条件:会社員(勤続30年)が、iDeCo(加入年数20年)1,000万円を一時金で受け取った後、5年後に退職金1,500万円を受け取る場合
㋐退職所得
iDeCo1,000万円
退職金1,500万円
㋑退職所得控除
iDeCo:40万円×加入年数20年=800万円
退職金:800万円+70万円×(勤続30年-20年)=1,500万円
㋒課税退職所得
iDeCo:(㋐退職所得1,000万円-㋑退職所得控除800万円)×1/2=100万円
退職金:(㋐退職所得1,500万円-㋑退職所得控除1,500万円)×1/2=0万円
㋓所得税
㋒課税退職所得100万円×所得税率5%※-控除額0円※=5万円
※上記の所得税の税額表を参照
㋔復興特別所得税
㋓所得税5万円×復興特別所得税率2.1%=1,050円
㋕住民税
㋒課税退職所得100万円×住民税率10%=10万円
㋖納税額合計
㋓所得税5万円+㋔復興特別所得税1,050円+㋕住民税10万円=15万1,050円
このように、5年ルール(※)を活用できれば納税額を大幅に減らせる可能性があります。しかし、これらのルールは適用できるケースが限られています。5年ルール(※)の場合、iDeCoを60歳で受け取ると退職金は65歳以降になり、会社の定年退職時期と合うかどうかがポイントです。19年ルールはさらに期間が長いため、早期退職者や転職で退職金を早く受け取った人などが主な対象となります。多くの方が60歳~65歳で退職金とiDeCoをまとめて受け取りたいと考える場合、これらのルールは活用しにくいのが実情です。
※2025年度の税制改正で「5年ルール」が「10年ルール」に変更(2026年1月1日施行予定)
では、5年ルール(※1)や19年ルールが活用できない場合、諦めるしかないのでしょうか? いいえ、まだ打てる手があります。それが、「退職金を受け取った後も、iDeCoの受け取りを遅らせ、可能であれば少額でも掛金の拠出を続ける」という方法です。
iDeCoは現在、掛金の拠出は65歳未満まで(国民年金任意加入者などを除く)、資産の運用は75歳まで可能です(※2)。
退職金を受け取った後、iDeCoの受け取りを例えば65歳や70歳まで遅らせ、その間、最低掛金額(月額5,000円)でも拠出を続けると、その追加で拠出した期間もiDeCoの「加入者等期間」としてカウントされます。
これにより、退職金受け取り時に使った「勤続年数」とは別に、iDeCo独自の加入者等期間で退職所得控除を計算できるため、控除枠をより有利に使える可能性が出てくるのです。
※1 2025年度の税制改正で「5年ルール」が「10年ルール」に変更(2026年1月1日施行予定)
※2 2025年度税制改正で拠出期間が70歳まで延長
計算例:
それでは、上記パターン①に当てはめて見てみましょう。
前提条件:会社員(勤続30年)が退職金1,500万円を60歳で受け取った後、iDeCoの掛金 毎月5,000円を5年間継続して拠出し、1,030万円※を一時金で受け取る場合
※5年間の運用成績は考慮しません
※元々の1,000万円に毎月の掛金5,000円×12ヵ月×5年間=30万円を足した金額
㋐退職所得
退職金1,500万円
iDeCo1,030万円
㋑退職所得控除
退職金:800万円+70万円×(勤続30年-20年)=1,500万円
iDeCo:40万円×加入年数5年=200万円
㋒課税退職所得
退職金:(㋐退職所得1,500万円-㋑退職所得控除1,500万円)×1/2=0万円
iDeCo:(㋐退職所得1,030万円-㋑退職所得控除200万円)×1/2=415万円
㋓所得税
㋒課税退職所得415万円×所得税率20%※-控除額42万7,500円※=40万2,500円
※上記の所得税の税額表を参照
㋔復興特別所得税
㋓所得税40万2,500円×復興特別所得税率2.1%=8,452円(1円未満切り捨て)
㋕住民税
㋒課税退職所得415万円×住民税率10%=41万5,000円
㋖納税額合計
㋓所得税40万2,500万円+㋔復興特別所得税8,452円+㋕住民税41万5,000円=82万5,952円
この計算例では、退職金とiDeCoを同時に受け取る場合に比べて、納税額を約26万円減らすことができました。重要なのは、退職金とiDeCoの受け取りタイミングをずらし、その間にiDeCoの加入者等期間を新たに(または継続して)積み増すことで、それぞれの退職所得控除をできるだけ有利に活用するという考え方です。
iDeCoは60歳から75歳までの間で、受け取りを開始する時期を自分で選べます。もし、公的年金の受給額が多い方や、退職後も他の所得がある方は、iDeCoを年金形式で受け取ると、所得税の税率が上がってしまう可能性があります。そのような場合は、iDeCoの受け取り開始時期を少し遅らせる(例えば68歳や70歳からにする)ことで、その年の他の所得が少ないタイミングで受け取り、適用される税率を抑えるという工夫も考えられます。これは、所得税の累進課税の仕組みを利用した節税テクニックです。
iDeCoと退職金の受け取り方は、まさに個々の状況に応じた『オーダーメイドの出口戦略』が必要です。勤続年数、iDeCoの加入期間と資産額、退職金の額、そして60歳以降の働き方やライフプランによって、最適な方法は全く異なります。税制も複雑ですので、ご自身で判断に迷う場合は、必ず税理士に相談し、具体的なシミュレーションをしてもらうことを強くお勧めします。
iDeCoの制度が変わると聞きましたが、出口戦略にどう影響しますか?
2025年度以降、iDeCoの拠出期間が70歳まで延長されたり、拠出限度額が増額される予定です。これが実現すれば、より長く、より多く積み立てられるようになり、出口戦略の選択肢も広がります。例えば、受け取り開始を遅らせて運用期間を延ばす、より多くの資産を非課税で受け取る、といったことが考えられます。
現在、iDeCo制度についてはさらなる利便性向上を目指した改正がされました。特に注目されているのが、①掛金拠出期間の70歳までの延長と、②拠出限度額の引き上げです。
これらの改正が実現した場合、iDeCoの出口戦略にも以下のような影響が考えられます。
制度改正の動向には引き続き注目し、ご自身の出口戦略を考える上で、最新情報を常にアップデートしていくことが大切です。
iDeCo(イデコ)は個人型の確定拠出年金制度です。自分で掛金を拠出し(金額は加入区分や選択プランによる)、自分で運用商品を選び、その運用成果を原則60歳以降に年金または一時金、あるいはその両方の形で受け取ることができます。最大の魅力は、①掛金が全額所得控除、②運用益が非課税、③受け取り時にも控除があるという3段階の強力な税制優遇です。老後資金作りのための非常に有利な制度と言えます。
メリットは、前述の通り「掛金全額所得控除」「運用益非課税」「受取時控除」という強力な節税効果です。これにより、効率的に老後資金を準備できます。
デメリットとしては、原則60歳まで資金を引き出せないこと、投資信託などで運用する場合は元本保証ではなく運用リスクがあること、そして今回のテーマである受け取り時の税金計算や手続きがやや複雑であることなどが挙げられます。
大きく分けて、一時金で受け取る場合は「退職所得」として、年金形式で受け取る場合は「雑所得(公的年金等控除の対象)」として課税されます。退職所得には「退職所得控除」という大きな控除があり、さらに控除後の金額の1/2が課税対象となるため、一般的には一時金の方が税負担は軽くなる傾向があります。ただし、他の所得状況や受け取る金額によって最適な方法は異なります。
最も注意すべきは「退職所得控除」の計算です。同じ年に両方を一時金で受け取ると、iDeCoの受取額と会社の退職金を合算した金額に対して、退職所得控除が適用されます。この際、控除額の計算基礎となる「勤続年数またはiDeCo加入年数」は、どちらか長い方の年数が使われます。そのため、合計額が控除額を大きく超える場合は税負担が増える可能性があります。受け取り時期をずらす「5年ルール(※)」や「19年ルール」の活用、あるいはiDeCoの受取を遅らせて拠出を続けるなどの対策を検討することが重要です。
※2025年度の税制改正で「5年ルール」が「10年ルール」に変更(2026年1月1日施行予定)
主なメリットは、将来iDeCoを一時金で受け取る際の「退職所得控除」の枠を増やせる(または別に使える)可能性があることです。退職金受け取り後もiDeCoの掛金拠出を続ける(または運用指図者として加入期間を継続する)ことで、iDeCo独自の加入者等期間を積み増し、結果として税負担を軽減できる場合があります。また、運用を継続することで、資産をさらに増やせる可能性もあります。
iDeCoは、老後資金準備のための強力なツールですが、その効果を最大限に引き出すためには、受け取り方、すなわち「出口戦略」を事前にしっかりと計画しておくことが不可欠です。特に、会社からの退職金が見込める方は、iDeCoとの受け取りタイミングや方法を工夫することで、手取り額を大きく変えることができます。
この記事では、一時金と年金のメリット・デメリットから、退職所得控除を最大限に活かすための「5年ルール(※)」「19年ルール」、そしてそれが難しい場合の次善策としての「退職後のiDeCo継続」といった具体的な節税術まで解説してきました。
しかし、税制は複雑であり、個々の状況(勤続年数、iDeCoの加入期間や資産額、退職金の額、60歳以降の働き方やライフプランなど)によって最適な戦略は異なります。また、今後の税制改正などの動向も、今後の出口戦略に影響を与える可能性があります。
ぜひ、この記事を参考に、まずはご自身の状況を整理し、iDeCoの受け取り方について具体的なシミュレーションを始めてみてください。そして、最終的な判断に迷う場合は、信頼できる税理士やファイナンシャルプランナーに相談し、あなたにとって最善の出口戦略を見つけ出し、豊かなセカンドライフを実現しましょう。
※2025年度の税制改正で「5年ルール」が「10年ルール」に変更(2026年1月1日施行予定)
※本記事の内容は、執筆時2025年5月のものです。最新情報は各機関や企業の公式サイトをご確認ください。
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田中 大二氏