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2025年から、パートやアルバイトの働き方に大きな影響を与えてきた「103万円の壁」が、実質的に「160万円の壁」へと大きく引き上げられることが決定しました。この変更は、長年の課題であった「働き控え」を解消し、深刻化する人手不足に対応するための重要な一歩です。
しかし、「本当に160万円まで働いても大丈夫?」「社会保険の壁はどうなるの?」といった疑問や不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
この記事では、パート・アルバイトで働く主婦(主夫)の方、学生さん、そして企業の労務担当者様に向けて、2025年からの制度変更の全貌と、損をしないための賢い働き方、そして企業が取るべき対応を解説します。
「年収の壁」と一括りにされがちですが、その性質は全く異なる2種類に大別されることをご存知でしょうか。それは「税金の壁」と、手取り収入への影響がより深刻な「社会保険の壁」です。この違いを理解することが、賢い働き方を考える上での第一歩となります。
「税金の壁」とは、主に所得税や住民税に関わるもので、これを超えると税金の支払いが発生したり、扶養者の税負担が増えたりします。しかし、その負担は超過した所得に対して課されるため、収入が増えるにつれて手取りもなだらかに増えていくのが特徴です 。
一方で、本当に注意が必要なのは「社会保険の壁」です。これは年収106万円や130万円のラインで、これを超えた瞬間に新たに社会保険料の支払い義務が発生します。保険料は収入全体に対して大きな割合で課されるため、壁を少し超えただけで手取り額が年間15万円以上もガクンと減ってしまう「手取りの逆転現象」を引き起こすのです 。今回の改正で大きく変わるのは前者の「税金の壁」であり、後者の「社会保険の壁」は依然として大きな課題として残っています。
「税金の壁」と「社会保険の壁」の違い

※2026年10月をめどに、厚生年金における賃金の要件が撤廃され、実質的に年収106万円の壁がなくなります。
2025年(令和7年)から適用される税制改正は、長年意識されてきた「103万円の壁」の景色を大きく塗り替えるものです 。その核心は、主に3つの大きな変更点に集約されます。
今回の改正で最もインパクトのある変更点は、パート・アルバイト労働者自身の所得税が非課税となる上限が、最大で160万円まで引き上げられることです 。これは、全ての納税者に適用される「基礎控除」と、給与所得者向けの「給与所得控除」がそれぞれ引き上げられることによって実現します。ただし、この160万円という上限は、所得の低い層を手厚く保護するための時限的な措置が含まれている点に注意が必要です 。
次に、配偶者や親の税法上の扶養に入るための年収上限も、従来の103万円から123万円へと引き上げられます 。これにより、例えば妻がパートで働く場合、年収123万円までであれば、夫は引き続き配偶者控除を受けられるようになります。これは世帯主の税負担に直接影響する重要な変更点です。
そして、今回の改正で最も画期的と言えるのが、大学生などを対象とした新制度「特定親族特別控除」の創設です 。従来、大学生の子どもがアルバイトで年収103万円を少しでも超えると、親が受けていた高額な「特定扶養控除」(63万円)が全額なくなり、世帯の手取りが急減する深刻な問題がありました 。
この新制度により、親は子どものアルバイト年収が150万円に達するまで、従来の控除額とほぼ同額の控除を受け続けられるようになります 。さらに、年収が150万円を超えても控除額はゼロにならず、188万円まで段階的に減少していく「ソフトランディング」の仕組みが導入され、学生が就業調整を気にせず働ける環境が大きく前進しました 。
一目でわかる!2025年からの「税金の壁」新旧比較表
| 観点 | 改正前(~2024年) | 改正後(2025年~) |
|---|---|---|
| 本人の所得税 | 1,030,000円 | 1,600,000円 (※1) |
| 家族の扶養の基準 | 1,030,000円 | 1,230,000円 |
| 学生の扶養の基準 | 1,030,000円 | 1,500,000円 (※2) |
※1: 低所得者層向けの時限的な措置を含んだ場合の最大非課税上限額です 。
※2: 新設の「特定親族特別控除」により、親が満額の控除(63万円)を受けられる学生本人の年収上限額です 。
税金の壁が大幅に緩和された一方で、私たちの働き方に最も大きな制約を与えている「社会保険の壁」は、依然として手つかずのままです。税制改正によって働きやすくなったと考えるのは早計で、この最大の難関を理解しておくことが極めて重要です。
具体的には、従業員51人以上の企業などで働く場合、年収が106万円を超えると勤務先の社会保険(厚生年金・健康保険)への加入が義務付けられます 。それ以外の小規模な企業で働く場合でも、年収が130万円を超えると、自身で国民健康保険と国民年金に加入しなければなりません 。
問題は、この壁を超えた瞬間に、給与から社会保険料(年収のおおよそ15%)が天引きされ、手取り収入が年間で15万円から20万円以上も一気に減少してしまう点です 。これが、多くの人が就業調整をせざるを得ない「働き損」の正体です。
政府もこの問題に対応するため、企業が従業員の保険料負担を補助する際に助成金を出す「キャリアアップ助成金」や、繁忙期の一時的な収入増であれば扶養を継続できる「事業主の証明」といった支援策(年収の壁・支援強化パッケージ)を講じています 。しかし、これらはあくまで一時的な緩和策であり、根本的な解決には至っていないのが現状です。
要注意!「社会保険の壁」で起こる手取りの逆転現象

※2026年10月をめどに、厚生年金における賃金の要件が撤廃され、実質的に年収106万円の壁がなくなります。
では、この新しい制度の中で、私たちはどのように働くのが最も賢いのでしょうか。ご自身の状況に合わせて、具体的な戦略を考えてみましょう。
選択肢は大きく二つに分かれます。一つは、手取りの減少を確実に避けるために、年収を106万円未満に厳密にコントロールする「壁の内側で働く」戦略です。
もう一つは、社会保険料の負担を吸収してなお手取りが増える年収155万円以上などを目指して、積極的に労働時間を増やす「壁を大きく超えて働く」戦略です 。この場合、短期的な手取り減と引き換えに、将来受け取る年金額が増えたり、病気や怪我をした際の傷病手当金が受けられたりと、手厚い保障が得られる長期的なメリットも考慮に入れる必要があります 。
学生の皆さんにとっては、大きな足かせが外れたと言えます。親の扶養を気にするのであれば、新たな目安は年収150万円です 。この範囲内であれば、税金を理由にアルバイトを控える必要はなくなりました。ただし、自分自身の社会保険の壁、つまり年収130円を超えると国民健康保険料などの負担が発生する点は、引き続き注意が必要です 。
今回の法改正は、企業の人事・労務戦略にも大きな見直しを迫ります。担当者の皆様は、以下の4つのポイントを至急確認し、対応を準備する必要があります。
今回の改正は、長年の課題解決に向けた大きな一歩ですが、決してゴールではありません。むしろ、より大きな制度変革へ向かう「移行期」の始まりと捉えるべきです。
政府はすでに、社会保険の壁そのものを段階的に取り払う方針を示しています。例えば、106万円の壁を構成する「企業規模の要件」は2027年から段階的に引き下げられ、最終的には撤廃される予定です 。また、サラリーマンの妻などが保険料を負担せずに年金を受けられる「第3号被保険者制度」についても、そのあり方を見直す議論が本格化しています 。
これらの動きは、日本の社会保障制度が、世帯単位で支える旧来のモデルから、働く一人ひとりが個人として加入する「普遍的加入」のモデルへと、ゆっくりと、しかし着実に移行しつつあることを示しています。
2025年からは税金の壁が大きく緩和されます。パート労働者本人の所得税がかからなくなる上限が最大160万円に、家族の扶養に入るための上限が123万円に引き上げられます。特に学生は新制度で150万円まで親の扶養を気にせず働けるようになります。
「税金の壁」は所得税などに関わり、超えても手取りはなだらかに増えます。一方、「社会保険の壁」(106万円/130万円)は超えた瞬間に保険料の負担が発生し、手取りがガクンと減るため注意が必要です。ただし、106万円の壁は2026年10月を目途に実質的に撤廃される予定で、今後は130万円の壁が主な焦点となります。
2026年10月までは、手取りの減少を避けるなら年収106万円未満に抑えるのが安全です。2026年10月以降は106万円の壁が実質的になくなるため、次の焦点は「130万円の壁」になります。社会保険に加入して将来の保障を手厚くしたい場合は、保険料負担を吸収できる155万円以上を目指すのが一つの選択肢です。
2025年に税金の壁は緩和されますが、手取りに最も大きな影響を与える「社会保険の壁」は依然として最大の課題です。特に2026年10月以降は、106万円の壁が実質的になくなるため、残る「130万円の壁」をどう考えるかが働き方を決める上で最も重要になります。
2025年の「年収の壁」見直しは、税制上の働き控えを緩和する画期的な改正です。特にパートで働く方や学生にとっては、より多くの収入を得るチャンスが広がりました。
しかし、その一方で、手取り収入に最も大きな影響を与える「社会保険の壁」は、依然として最大の課題として私たちの前に立ちはだかっています。問題が「税金」から「社会保険」へと、より明確になったと言えるでしょう。
重要なのは、この制度変更を正しく理解し、目先の収入だけでなく、将来の年金や保障といった長期的な視点も持って、ご自身のライフプランに最適な働き方を選択することです。この記事が、そのための確かな一助となれば幸いです。
この記事の監修者

ファイナンシャルプランナー 田中 大二
<プロフィール>
2007年より大手生命保険会社に勤務。主に住宅購入を検討されている方に向けたライフプランおよびファイナンシャルプランコンサルティングに従事。
その後、大手ネット証券会社を経て、金融機関向けマーケティング会社を設立し、クライアントである金融機関を通じてお金に関する商品やサービス、情報を生活者へ提供している。
マネーリテラシーの向上を目標とし、過去の経験を活かして生活者へ直接お金に関する知識や情報を提供したいという想いから、FPオフィスを立ち上げる。
<保有資格>
AFP
2級ファイナンシャル・プランニング技能士
住宅ローンアドバイザー
※本記事の内容は、執筆時2025年8月のものです。最新情報は各機関や企業の公式サイトをご確認ください。
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